奥が深いぞ。軸先の話~後編~

変形軸先の接写

前回に続き、軸先の話です。今回は軸先の形について紹介したいと思います。

はじめに軸先で一番シンプルな形の「頭切(ずんぎり)」です。そのシンプルな形ゆえに汎用性が高く、掛け軸のあらゆる形に使うことが出来ます。

頭切

次は、頭切のカドを落とした「面取(めんとり)」です。落とすことでカドが傷むことを防ぎます。またカドを曲線に落としたものを「銀杏面(ぎんなんめん)」といいます。これは”ぎんなん”に形が似ているから、だそうです。面取という形は”神道的な表現”が強く神道系の本紙によく使われます。面取り部分に金で装飾したものを「面金(めんきん)」といいます。朱塗りの面金は、お雛様の絵を掛け軸にする場合によく使います。

面取面取・銀杏面比較

断面に丸く筋彫りをしたもの、牙などを象嵌したものを「印可(いんか)」といいます。印可とは禅宗などで弟子が師からいただく卒業証書(語弊がある言い方かもしれないが)”印可状”からきています。よって頂相画の表装に適しています。また、巻物の軸先としてよく使われます。

印可

輪を重ねたような形の「段巻(だんまき)」は官人の書画に適しています。段巻は素材や形によって”渦軸”や”千段巻”と呼ばれます。茶道で使われる茶掛の軸先に使うこともあります。

段巻

これは「宗丹(そうたん)」と呼びます。つるんとした見た目が特徴です。主に”草”と呼ばれる掛け軸の形に使われます。

宗丹

これは「撥(ばち)」と呼びます。名は、断面が三味線を弾く撥に似ていることが由来のようです。主に”草”と呼ばれる掛け軸の形に使われます。

撥

こちらも”ばち”と呼びます。しかし同じばちでも太鼓などを鳴らす「枹(ばち)」です。こちらも断面の形が似ていることが由来のようです。主に”草”と呼ばれる掛け軸の形に使われます。なお、これと上記の”ばち”は長いバージョンもあり南画・文人画と呼ばれる大陸系の本紙の表装に使われます。

枹長撥長枹

最後のは「利久(りきゅう)」と呼びます。これは長撥と同じく南画・文人画と呼ばれる本紙の表装に使われます。日本様式の「大和仕立」と呼ばれる表装の形に使うには、この軸先の主張が強くゴチャゴチャとするので向きません。

利久

大和仕立

 

南画・文人画を表装する際「文人仕立」と呼ばれる形にしますが、これはシンプルな形をしています。よって利久を使ってもバランスが取れます。

文人仕立

 

と、軸先の紹介をしてきましたが、他にもいろんな形・見た目の軸先があります。集めてみるのも面白いかもしれません。中でも塗に蒔絵を施している軸先は、それだけで立派な芸術品です。また、色・形・名の由来など知ってもらうと美術館などでの鑑賞時に見るポイントが増えるかも知れないですね。

世界遺産の高野山で掛け軸などの製作修復なら当店へ ホームページはこちらをクリック 加勢田芳雲堂

奥が深いぞ。軸先の話~前編~

掛け軸の軸棒から出っ張っている部分を軸先と呼びます。

軸先は掛け軸を巻くときに役立ちます。また、掛け軸全体のアクセントになります。しかし軸先選びを間違えると表装の調和が崩れ、パッとしなかったり野暮ったい表装になってしまうのです。

さらに表装の形や書画(本紙)によって使うべき軸先の素材・形が決まっています。知らずに間違った軸先を使用すると表具師として恥ずかしいことになります。

では軸先にどんな素材・形があるのか紹介します。

軸先の素材には木材・骨材・塗物・焼物・金属材・樹脂材などに分けられます。

木材には黒檀(こくたん)紫檀(したん)花梨(かりん)などがよく使われます。いずれも硬く耐久性に優れた木材です。また、神道系の掛け軸には神木とされる一位(いちい)の木が使われます。

骨材には象牙・骨・角などの動物からとれる素材でできています。象牙は現在、取引が禁止されているため昔からの在庫を使用するか代用品を使います。また角軸先で鹿の角を使った軸先は鹿が神使である春日大社関係の本紙に使われます。

塗物は木材に漆塗りなどで仕上げた軸先です。黒漆や朱の色漆で仕上げたもの。黒漆に朱やベンガラを混ぜ、茶系の色で仕上げる潤塗り(うるみ塗り)。朱で塗った後に透明の漆で仕上げる溜塗り(ため塗り)が塗物の基本的な色です。そこに金箔等で装飾したもの(蒔絵など)もあります。

焼物は磁器・陶器で作られたもの、染付けから素焼きと、あらゆる焼物の軸先が作られています。格式を高くするべき本紙には使われません。

金属材は金軸と呼ばれ金属製の軸先に金や銀をメッキしたものです。主に仏表装に使われます。軸先に蓮華などを彫金してからメッキしたものが多くみられます。また金軸の中に、ひと回り小さい金軸や水晶を入れ、それが透けて見えるように加工した透かし金軸があります。

古色金軸透かし金軸

樹脂材の軸先は、上記の象牙や水晶製軸先など希少なものの代用品として見た目を似せて作られます。また、塗物軸先に似せた代用品もあります。

紹介できたのは、ほんの一部ですがたくさんの種類の軸先が存在し、それらを使い分け表装がより良く見えるように考えるのです。

ちなみに今まで紹介した軸先のほとんどが「頭切(ずんぎり)」と呼ばれる形で軸先の基本形になります。後編では、軸先の形について紹介したいと思います。

後編⇒「奥が深いぞ。軸先の話~後編~

世界遺産の高野山で掛け軸などの製作修復なら当店へ ホームページはこちらをクリック 加勢田芳雲堂